303号室から愛をこめて

何が楽しくて生きているのか

放蕩息子、故郷へ帰る

 

仕事を辞め、結婚を考えていた交際相手と破局したあとの話

 

 

 

ここに長居する意味はもうないから実家に帰る頭ではいたものの、

のこのこ帰れるような図太さは持ち合わせてはなかった

 

「早く言わなきゃ」

頭ではわかっていても話すに話せないでいるままここまできてしまった

 

あんなにも大口叩いたくせに情けない

周囲の期待や応援に応えられなくて申し訳ない

打ち明ける際のみじめな自分を受け入れられない

 

自分のふがいなさを懺悔できないまま現実逃避を続けた

 

逃げた

 

 

 

 

昔からの悪い癖だね

女を求めるのは未だに直っちゃいない

 

とにかく女を家に招いた

その女だって僕と同じように求めている

 

イヤだね、認めたくはないけど似た者同士

さみしい人間だ

 

 

 

市内、県外、地元から遠路はるばる…

馬鹿だよ、男なんて掃いて捨てるほどいるってのに、

どうして僕なんかのもとに来るのだろう

 

呼んでる張本人がこんなこと言ってはいけないし、

もしかしたら相手の好意を利用しているだけともとれる。

そう考えると控えめに言ってもどうしようもないクズだ、

自分の娘にはこんな男と絶対にかかわらせたくないね。

娘を持つ父親になんてなれそうにないけど

 

 

 

自宅にあがらせて、事を始めたあたりまではまだいい

そのあとだ、なぜだか無性に苛立って仕方ない

 

賢者タイムなる言葉がある

「それだろ」と言われたらそれまでかもしれない

ただ自分では何か違う感覚というか

 

「みっともない格好でだらしない声をあげて

どうしてコイツはこんなにもよがっているのだろうか」

 

意味がわからなくなってくる

自分も同じくらい滑稽にあほらしく腰を振りながら

 

 

 

別に嫌いじゃないし誰でもいいわけでもない

彼女らに対しそれなりに情はあるつもり

だけれども特別に好きではない

 

事後、暑苦しいほどまとわりついてくる。

終ったらすぐに煙草を吸うような薄情な人間ではないし、

なんならむしろ僕の方が離れてほしくなかった。

それは過去の話らしい、最近は鬱陶しくてたまらなかった

 

コイツは何を考えているのだろう、

特別なんの感情もない、かっらぽの僕を苦しいほど強く抱きしめて

 

 

 

隣にいる女が眠りにつくのを待つようになっていた

早く寝てくれ、一刻も早く解放してくれ、と願ってやまなかった

 

いましか抱かない感覚を、浮かばない文章を、

一字一句漏らすことなく書き残しておきたい。

これが理由のひとつめ

 

ふたつめは翌日に同じ時間を過ごしたくないから。

女が起きる前に寝て、できるだけ長く眠る

どうしようもなく苛ついてしまうのだ、こうするほかない。

結局「もう少し居てもいい?」と神経を逆なでしてくるのだが

 

 

 

帰らせたあと大掃除を始めて「二度と呼ぶもんか」と思うも、

別の女で同じことを繰り返すのだからどうしようもなくあほらしい。

毎度毎回、懲りねえよなぁ

 

 

 

 

そうこうして現実を直視することなく逃げ回り来るところまで来た

ずるずるといきそうで急に怖くなり今月末での退居を申し出た

しかしまだ最も重要な「両親への報告」はできずにいた

 

退居の手続きをして10日過ぎた今日、

意を決して母に電話をした

 

 

 

とんでもないくらい、何も言わずに話を聞いてくれた。

普段やたら口を挟んでくる母が

 

そして父に代わってもらった

母からある程度聞いたのもあるだろうが、父も同じように頷くだけである。

感情的でおっかねえ昭和の頑固親父が

 

電話を切ったあと、

『思うところはあるが仕方ない。心配するな、帰ってこい。』

と、父からメッセージが届いた

 

崩れ落ちた

 

 

 

 

友人らには言われていた

「恐れず早く言うべき」だと

「親は無条件に子供を愛する唯一の存在」だと

 

だけど信じられなかった

「んなこと言ったってねぇ」

そんなところだった

 

結果的にはみんなが正しかった

話すに話せなかった自分はいったい何だったのかと思うほどに

 

 

 

言うまでもなく、実家に帰ったら土下座必至である

ぶん殴られるかもしれない

 

でもいまだからわかる

 

レンブラントの『放蕩息子の帰還』

傍から見たらあんな風に映るんだろうなと

 

僕も親父も

 

f:id:ohts:20200710051747j:plain

レンブラント『放蕩息子の帰還』