303号室から愛をこめて

何が楽しくて生きているのか

2020-12-01から1ヶ月間の記事一覧

夜明け前

死んだように黙り続ける幹線道路沿いを歩いた。 日中の喧騒が嘘のように静寂が包み込んでいる。足元から聞こえる自分の革靴が立てる疲れきった音だけが、声を上げることを許されている。せめて凍えそうなほど寒い風を一身に受け止めた街路樹が鳥肌を立てなが…

「死にたい」がない

炊飯器が鳴るのを待っている。「食べたい」と思った瞬間が一番「食べたい」わけであり、「食べたい」と思ってから料理を始めたらいざ食べ始めるときには飢餓状態でない限りは「食べたい」という気持ちのピークを過ぎてしまっている。 とはいえ「食べたい」と…

なにくそ

毎日何かしらに悔しいと感じており、そのたびに奥歯を強く噛み締めてしまうから、そろそろ草食動物スタイルの歯になってしまうのではないかと気が気でない。 仮に草食動物っぽい歯になったら野菜しか食べなくなるのだろうか。いや、ない。 面接の疲れからか…

刃毀れ

研ぎ澄ましてきた言葉の刃は呆気なく壊れた。 刺すことはおろか突き立てることすら敵わぬ。言葉を失う、とは恐ろしいものだね。 急に頭から思考や意思が消えていくんだ。 言葉で理解してるから言葉が消えたら そりゃあ当然何もなくなってしまうよね。記憶が…

中指

正当に評価されるなんてことは童話の世界のおはなしで、まるでサンタクロースを信じなくなるように大人になるにつれて現実を知る。 だけど乙女がいつか白馬の王子様が迎えに来てくれるのではないかと淡い期待を捨てきれないでいるように、どこか夢見がちな僕…

「ほら息が白い」 煙草の煙を吐いて言ってみせた。「そんな子供だましに引っかかるわけないでしょ」 子供のまんまだねと言わんばかりの呆れ顔で君はため息をついた。 「あ、白い」 「言ったじゃん」 白い煙が夜に溶け込んで消えた。「そういえばこの前言って…