303号室から愛をこめて

何が楽しくて生きているのか

なにくそ

毎日何かしらに悔しいと感じており、そのたびに奥歯を強く噛み締めてしまうから、そろそろ草食動物スタイルの歯になってしまうのではないかと気が気でない。
仮に草食動物っぽい歯になったら野菜しか食べなくなるのだろうか。いや、ない。

面接の疲れからか黒塗りの高級車に追突してしまう。ことはなかったが、まさに『呑み屋』というに相応しい店に吸い込まれていった。
足取りは米津玄師のLOSERのそれ。Flamingoでも良いかもしれないと一瞬思ったが左半身に致命傷は負っているわけでもないから今回はご縁がなく誠に残念ではありますが貴殿のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
自分で書いてなんだが自虐で済まされないほどの痛手を負った気がするよ。頼むから受かってくれ。

後輩をかばいすべての責任を負った私に対し店主、ママが言い渡した示談の条件とは……。


カウンター7席くらいの小さいお店に夕方だというのに人生の大先輩である4人の常連さんがおり、アウェイで場違いな私はちょこんとカウンターの端に座った。
ビールともつ煮を頼んでタバコ吸いながら常連の話に耳をそばだてていたのだが、私くらいの年齢は珍しいのだろう、すぐに話に入れてもらえて秒で打ち解けた。出会って2秒で合体状態。

ママからのボトル入れたら次から安いという“営業”をのらりくらり躱していると、私より上だが若めの男性が入ってきた。
私の隣に座った男性もまた常連で多いときは週6で来店するそうだ。その教師をやっている男性ともすぐに仲良くなり、文学部のトークで盛り上がった。

ちょっとビール1杯飲んで帰るつもりだったが、先生が自分のボトルから3杯くらいごちそうしてくださり、結果安くてめちゃくちゃ酔えてしまった。
お互いに酔ってきたから色々プライベートな話にもなり、その中で日頃から感じていることをつい吐露してしまった。悔しさのあまり唇を噛み過ぎていまや口紅が要らなくなったことなど。


先生は2つの言葉を教えてくれた。
『発奮著書』と『何苦楚』

まず『発奮著書』は読んで字のごとく、心から溢れ出たものを書いたもので、歴史的にもそういった作品は優れてるものが多いと。だから今の感情を書いたり歌ったり喋ったり何か表現したらいいよと。

もうひとつの『何苦楚』は、これなんだ? 仏教?
夜露死苦的な当て字なのかよくわからなかったけど、意味としては『何事にも苦しむことが礎(いしずえ)となる』らしい。
いま書きながら調べてたら野球選手の座右の銘らしい。なるほど、先生めちゃくちゃ野球好きらしかったもんな。
きっと一般的に使われる何糞とのダブルミーニングでしょうね。


すっかりごちそうになったうえに、金言までいただき直帰しなくてよかったなと思えた。
もうひとつ有益だったのは「恐妻家話をしてるのは幸せな証拠」だという話。本当に締められてたら声も上げられないという理由がひとつ、もうひとつは直接的な自慢は煙たがられるから自虐で遠回しに幸せアピールをしているらしい。まさに明日使えるムダ知識である。
また行くとママと先生とほかの常連にも約束して店を出た。

フジファブリック『夜明けのBEAT』のMVで走る森山未來よろしく家まで酩酊しながらよろよろと帰った。
歩道橋の上は誰もいないだろうとちょっとはしゃいでたら向こうからランニングマンが来て気まずい思いをした。こちとらD.E.I.S.U.I.やぞ。
しかしランニングマンって歩道橋をコースにするのね。

そしていま、今日の話を忘れないようにと文章を書いております。
日々くすぶってる気がしてて心穏やかでない感じがしていたけれど、いまはだいぶすっきりできた気がするし、尻に火がついた。
そういやお世話になった教授は「尻という言葉は卑猥だからケツと言え」と主張していた。未だによくわからない。
同じような話を前の記事でも書いた気がするけど、いまのこの感情を糧にして自分のために頑張りたいね。