303号室から愛をこめて

何が楽しくて生きているのか

書きかけ

定時で仕事終わるのに、帰宅がいつも23時過ぎるのはどういう了見なのか。
まあ、自分がわかってればいいことではある。


通勤のバスで毎日スマホを忙しなくフリックしてはいる。ただ、車酔いで10分少々で断念せざるを得ないのだ。
乗換検索では21分、道が混雑していれば約30分の絶妙な空き時間であるゆえに勿体ないと感じ、己の三半規管の過敏さを呪いたくもなる。


以前にも申し上げたが、こんなエッセイにもなれない中途半端なエゴの掃き溜めは、基本的に書き始めたらそのままの勢いで書き上げてしまいたい。それに輪をかけるようにして朝目が覚めるために書きたいことが変わってきてしまうのだからたまったものではないのだ。
それゆえに付箋に書かれた申し送り程度でしかない書きかけが散乱している。それこそドラマ等で見られるようなオフィスで物理的なデスクトップの縁に無造作に貼られたカラフルな紙、まさにそれだ。
まったく躁気質にも程がある。しかしあれもこれもと手を出し、それら全てを完璧に仕上げたゲーテという男は、現代を生きていたとしても間違いなくスーパースターと持て囃されていたに違いない。



今朝書こうと思ったのは、毎月恒例になりつつある友人の“禊”という名の風俗に同行する件についてだった。ちょうど昨晩の話になる。鉄は熱いうちに打てということだ。
まあ、毎月タダ飯食わしてもらってるわけで、いささか恐縮してはいるものの友人たっての希望なのだから同行を断る必要もないし、むしろ楽しまなければ逆に友人にも嬢にも失礼だ。こうして文章にして残しておくのもまた、私なりの礼儀というわけである。


60分1万1千円。これが高いのか安いのか相変わらずわからないが、心ひとつで安くも高くも思えるということだけは理解している。何だってそうだろう。惰性でやることほど不毛なものはない。
ただ一発の射精に1万1千円と考えるのは間違いだ。射精単位で換算するならば自宅でひとり励む以上のものはないのだから。射精に対する付加価値、つまりドラマ性やエンターテインメントを愉しめなければ極論行く意味はないのだ。
むしろ射精がエンタメの副産物のように感じられるときもある。ただし射精を蔑ろにしてしまうことだけはあってはならない。大意を見失った瞬間、人はいとも簡単に崩れ落ちていく。


全裸になったとき気付いてしまった。ニ週間前に右脚だけに除毛クリームを塗りたくったことを。
いま思えばYouTubeの広告で頻繁に出てくるアレを譲り受けたのが終わりの始まりだった。幼き頃に進研ゼミから定期的に送りつけられてきた布教マンガを流し読みして育った私としては、あの胡散臭い広告も結構な頻度で見入ってしまう。それゆえ除毛クリームにも当然興味をそそられており、試してみたいとは常々思っていた。それがひょんなことから手に入ってしまったのだから実験したくもなるだろう。
広告で謳っている効果の真偽を確かめるには自らの身体で対比実験をするしかあるまい。やることはいたって簡単。除毛クリームを右脚だけに塗り、左脚はそのままにする。そして一ヶ月後どうなっているか確認をする、それだけ。
正直、実験結果を確認するためだけに生きていると言っても過言ではない。それほどまでに楽しみにしているのだが、この惨状を嬢に見られてしまうのは非常に恥ずかしかった。だからといって自らカミングアウトして予防線を張るような行為は店側が許しても私が許さない。フェアプレーの精神に則り、何気ない顔をして嬢に醜態を惜しげもなく晒すことにした。


日頃から最悪の想定をしておくことを推奨している。人生万事パルプンテ。何が起きるかわからない。傷付かずに生きたいのならば、石橋は叩いて壊せばいいし、外堀は埋めて山にすればいい。
この場合のワースト3から順に発表すると、3位は引かれる。2位はシンプルに苦笑い。1位は見て見ぬ振り、だ。どう考えても弁明の余地すら与えてくれないワースト1位は地獄以外の何物でもない。
結論から言うと嬢は「前に右脚だけ大怪我でもした?」と言ってきた。私は「そうなんすよ」と答えた。


どうやら私は昔、右脚に毛が生えてこなくなるほどの大怪我を負っていたらしい。初耳だった。



ひと通り終えたあと嬢が聞いてきた。
「セックスしてて勝手に途中で抜かれて『もう疲れたから口か手でして』って言われたんだけど、そんなことありえる?」
ありえないね、と私は答えた。


じゃあ、と続けて嬢が聞いてくる。
「一回だけ一緒にイけたとき『やったね!』って言ったら、『オンナってこういうのがいいんだよな』って言われたんだけどどうなの?」
ひどいもんだね、と私は答えた。


だよねだよね、と調子づいた嬢が言う。
「若い子ってみんな性に貪欲さがなくなっていってるのかな? 前に来たお客さんも『友達とジャンケンして勝ったオレがこっち(メンエス)に来て、アイツはソープに行った』って言ってたの! 普通に考えたら勝ったらソープでしょ?」
いやそれは違う、と私は食い気味に答えた。


何もわかっちゃいない。
世の中には自分は全裸で直立不動で、普段着の嬢にただひたすら無言で真顔で手だけで導かれたいという変態もいる。私の友人だ。
彼の主張はよくわかる。プライベートとお店は全くの別物で、似て非なるものだと。家で食べるインスタントの袋麺はたしかに美味しいが、ラーメン屋にそれを求めないだろう。上手く例えられている気はしないが、まあそういうことである。


今回もまたひとつ収穫があった。
人間、こうして成長していくんやろなあ。